深夜に, 大正4年(1915)生まれの現役理容師のドキュメンタリー番組を観た.
その老女は背骨が曲がり背が低くなってしまったので, 客の髪をカットする間ずっと両腕を自分の頭より高く上げていなければならなかった. 手を見ただけでは年齢がわからない艶やかな皮膚と, 達者な指さばき.
終戦直後に夫を亡くし, 娘二人を自分の腕一本で育て独立させた.
この線路高架下に構えた小さな城を離れる気はなく, ここで生涯を終えたいと願っている. しかし年金では暮らせないから今も働く. 寂しさが身に堪えるようになってきたと言うが悲壮感はなく, 凛と仕事をこなしすっきりと笑ってみせる. 薬は欠かせない身体でも, 客を前にするとしゃきっと背筋が伸び指先に力がみなぎる. 常連で一番のうるさ型と, 女性の産毛剃りができなくなったら引退するしかないねと言う93歳にはそうそう出会えない. 早くに亡くなった次女の形見の鋏で仕上げをするのがこだわりだ. 緊張感のある, 鋏を持つ指が眩しい.
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