せつなくて祈りたい気持ちの時に, 胸の上に手の平がそっとおかれる位置. 恋はそこに宿る. 宿ったものは痺れて熱を生み, 人は盲目となる. オルゴールの中で舞うバレリーナ, ブリキの兵隊. 名も顔もいらないのである.
小学3年の秋, 自転車の練習をするのに貰ってきたのは大人用の重い実用車だった. ハンドル, ホイールなど全てをペンキで真っ赤に塗ってくれたが, いつまでもべたつくので爪を立て三日月に跡をつけるのが癖になった.郵便屋さんみたいだと自慢気に乗っていたけれど, ペダルにやっと足がとどく大きさだったから停止する度に飛び降りるか倒れるしかなく, アザが絶えない足をしていた. 公道を走る時は命がけだったことを母と年下の恋人は知らないと思うが, 一人でどこへでも出かけて行った. 自分が移動した分だけ道が出来ていくことを発見し, 世界を作る秘密を知った気になっていたのだ.
台風の影響で, 網戸のすき間から色々な虫が入り込んでいた.その中にやたら飛ぶゴキブリもいた. 大抵はぞぞぞと歩くだけなのに, 飛ぶ奴は何度も飛ぶ. 歩くのを忘れてしまったかのように飛びまくる. 夕べは50cm定規と一番近くにあった防水スプレー(飛び道具)で, ずっと戦う羽目になった. キリギリス・蛾・コウロギなども蛍光灯の下でバタバタうるさくしていたが, それらはゴキブリの影で放って置かれ朝には部屋のどこかへ消えていた.
見せたかったものは, 海. 太古の海, 全ての海. 荒れ狂う波が, まとわりつくように追いかけてくる.その表現はこれまでの中で一番ゾワゾワした.
11階の高さから観覧車を見ていた. 海までは歩いてすぐだけれど, 人工浜の海はつまらない.
[Am 8:00]
人間は貪欲である証拠に, 命に順位をつける.正義ではなく, 己の愛の不純度によって審判が下る物語.
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